
いよいよこの夢洲を歩くのも今日が最後になった。朝の光がゆっくりと夢洲の空に満ちていく。
西口ゲート、9時の予約。胸の奥にかすかな緊張が漂う。今日こそ、見残したものをすべて見届けよう。ガンダム・パビリオンの予約は取ってある。問題は「null²」だ。あの謎めいた施設を、どうしても当日予約で射止めたい。
そしてもうひとつの目標は、「渡航危険レベルの高い国」たちのパビリオンを巡ること。現実では遠く手の届かぬ国々が、ここでは肩を寄せ合い、ひとつの地図の上で息づいている。
入場してすぐ、足は自然とオランダ館へ向かう。だが、予約がなければ近づくことさえ許されないという。夢の国の入口は、まるで蜃気楼のように遠のいていく。ならば、と記憶の奥でずっと引っかかっていたハンガリー館へと向かう。あの日――6月。確かにこの列に並んだ。だが待っている間に、偶然パナソニック館の予約が取れてしまい、次が自分の番というところで離脱したのだった。あの未完の記憶を、今日こそ完結させねばならない。
列は果てしなく、太陽は高く、影は短くなる。10月の万博は、6月のそれとはまるで違う。熱気が高まり、人波が渦を巻く。体力も時間も削られていくが、それでも不思議と心は穏やかだった。これは試練であり、旅の儀式のようでもある。
新幹線の発車は20時。あと何時間、この世界にいられるだろうか。行きたい場所はまだいくつもある。けれど、時計の針が進むごとに、心の奥に「終わりの気配」が静かに降りてくる。万博最後の日、僕はひとつひとつの列の中で、ゆっくりと現実へ帰るための階段を下りていた。