
夢洲の風にのって流れてくる旋律がある。遠いウィーンの街角で鳴り響いていたヴァイオリンの余韻のようなその音は、どこか懐かしく、そして新しい。大阪・関西万博のオーストリアパビリオン――そこは音楽の魂がそっと息づく場所である。

外観はまるで五線譜のように白く流麗な線を描き、音符たちが空へ舞い上がっていくようだ。

その建物自体がひとつの楽曲のように呼吸している。足を踏み入れれば、ピアノの低音がやさしく響き、クラシック音楽の歴史と情熱が静かに来訪者を包み込む。

ここでは、モーツァルトやベートーヴェンの旋律が、ただの過去ではなく「いのちを持つ文化」として再び息を吹き返す。そして、そこに寄り添うのは日本の感性である。

グランドピアノの天板には葛飾北斎が描かれ、波と音符がひとつのリズムを奏でている。その姿はまるで、東西の芸術が握手を交わす瞬間のようだ。




オーストリアと日本、二つの国を結ぶのは、政治でも経済でもなく、心の奥底で鳴り続ける「音」である。

このパビリオンを歩くうちに、誰もが自分の中の小さな音楽を思い出すだろう。五線譜の間を渡る風のように、万博の喧騒の中でひととき、静かに世界と調和する――そんな奇跡の時間がここにある。