• 万博閉幕から

tokyo1970万博体験記 ㊶スペイン・パビリオン

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夢洲の朝、心をはやらせて辿りついたのはスペイン館であった。万博の門をくぐれば数時間は列に吸い込まれる覚悟が常だが、この日は珍しくわずか15分の待機で招き入れられた。その短い待ち時間がかえって期待を濃くし、入口を踏み越える足取りに弾みを与える。

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内部の構造は奇妙で、まるで塔を登る修行のように階段をひたすら上り、やがて頂に達してから滑らかに下降してゆく造りになっている。

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外観の陽気な赤や黄を思わせる色彩とは裏腹に、一歩足を踏み入れた途端に広がるのは漆黒と深い蒼の世界。太陽の国スペインのもうひとつの顔、海の深淵へと誘われたかのようだ。

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光は最小限に絞られ、壁面に浮かぶ波紋のような映像が空間全体を揺らす。青い深海を漂うような感覚に心がほどけ、見知らぬ異国の記憶が自分の体に刻まれてゆく。スペインが持つ海洋王国としての歴史、冒険と航海の精神が、この暗がりの演出に込められているのかもしれない。

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人々のざわめきも次第に静まり、足音が反響するのみとなる。ふと、遠くから響く音楽が波に重なり、祈りにも似たリズムが空間を満たす。明るい太陽と情熱の国を思い描いて入ったはずが、気づけば自分は闇の奥に抱かれ、深海に漂う生き物の一部となっていた。

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出口から眩しい空を見上げたとき、あれほど暗かった内部の記憶が鮮烈に蘇り、光と影の落差が一層心に刻まれる。スペイン館はただの展示ではなく、旅の起伏そのものを凝縮したような体験であった。
万博の地にいながらにして異国の海を渡り、光を再び見出す。その不思議な道のりを歩んだ後、人は誰しも、スペインという国を新たに胸に刻むことになるのだろう。

投稿日:2025年10月2日

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