
二度目の万博挑戦は、朝から胸の奥がざわめいていた。今回は前回よりも一歩深く、夢洲の迷宮を踏破する覚悟である。東西南北に誘惑の旗がはためくなか、まず足が向いたのはチェコ館。

パビリオン前の行列に近づくと30分待ちの案内が目に飛び込んできた。

通常の感覚ならば「長い」とため息をつくところだが、万博の時空は不思議な麻酔をかけてくる。30分待ちなど、まるで小鳥が一羽鳴くほどの一瞬にすぎないように思えてしまうのだ。

列に揺られ、空気の色を味わううちに、やがて入口が現れる。

チェコ館は内部をぐるぐると螺旋状に上ってゆく造りで、訪れる者をまるで巨大な音楽の旋律に巻き込む。

足を進めるたびに壁際の現代アートが姿を変え、光がにじみ、影が踊る。

絵画なのか、彫刻なのか、ただの光の戯れなのか判然としない作品群が、心の奥の感覚をそっと刺激してくる。足元を確かめながらも、心はいつしか重力から解き放たれ、芸術の渦に浮遊する。






合計260メートル。数字にするとただの距離だが、その一歩一歩は現実と夢のあわいを踏みしめる旅路である。いつしか空気は高く澄み、そして突如として視界がひらける。
4階の展望台。夢洲の海風が頬を打ち、遠くにはパビリオンの群れが陽光にきらめき、観覧車の影が地面に柔らかく落ちている。螺旋の果てに立つその場所は、ただの眺望ではなく、自分自身が万博という物語の登場人物であることを実感させる舞台だった。

この展望台から見下ろす景色は、過ぎ去った30分の待ち時間を祝福するように光り輝いていた。
現代アートの迷宮を抜け、時間を麻痺させる夢洲の魔法を胸いっぱいに吸い込みながら、次なる冒険へと足が自然に動き出す。
チェコ館で始まったこの一日は、まだ見ぬ物語の序章にすぎないのだ。
