• 万博閉幕から

tokyo1970万博体験記⑬ 未来の都市

この日、唯一手に入れた貴重な事前予約。扉の向こうに広がるのは“未来の都市”。
その言葉の響きだけで心は勝手に浮き足立ち、脳内ではすでにホバーカーが飛び交い、人工知能が詩を詠む幻想の街並みが構築されていた。

 

 

先に訪れたのが石黒浩パビリオンだったせいか、すでに感覚は「未来」に調律済み。半透明の人間や曖昧な存在が並ぶその空間で、現実がうす皮のようにめくれたあとだったからか、この“未来の都市”には、どこか現実との折り合いを探るような戸惑いもあった。想像と実物の微妙な隙間、それを歩く不思議な旅だった。

だからだろうか、その後に入った「未来の都市」は、まるで夢から覚めぬ続きのように感じられた。最先端の技術、バーチャル映像、スマートインフラ。スクリーンには便利な社会の仕組みが描かれ、エネルギーが循環し、災害に強く、誰もが孤立しない暮らしが、精密な模型とともに提示されていた。だが、そこにはどこか“演出された静けさ”が漂っていた。

未来とは、ただ光に満ちた理想郷ではなく、現実とのあわいに芽吹く仮説の連なり。ホバーカーもなく、人工知能も詩を詠まず、空にはドローンが舞うかわりに、冷房の効いた現実が静かに満ちていた。にもかかわらず、私はその“隙間”を歩くのが嫌いではなかった。

 

 

 

ここには確かに、これからやって来るかもしれない“何か”の気配があった。それは不安で、心細くて、そしてどこか懐かしい。未来は遠いものではなく、すでに私たちの影のかたちを借りて、静かに始まっているのだ。

投稿日:2025年7月7日

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