• 万博閉幕から

tokyo1970万博体験記⑩ シグネチャーパビリオン 石黒浩「いのちの未来」

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抽選には敗れた。潔く諦め、あての無い別の何かを探しに行こうと。だがそのとき、夢洲の風がふいに私の耳元で囁いた――「まだ、終わっていない」と。まるで都市伝説のように現れた“当日登録”という奇跡に滑り込んだ私は、あれよあれよという間に「いのちの未来」なるパビリオンへと導かれていた。

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そこは石黒浩氏の手による、万博が現実に擬態した夢の中だった。受付で手渡された不思議な端末は、ただの案内道具ではなかった。それは異世界の鍵であり、未来への入場券だった。扉が開く。私は時空を超えて、見知らぬ日常へと放り込まれた。

tokyo1970万博体験記⑩ シグネチャーパビリオン 石黒浩「いのちの未来」

 

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そこに広がっていたのは、アンドロイドが何食わぬ顔で生きる世界だった。彼らは家族を演じ、窓辺の陽光に目を細める。誰に見せるでもなく、ただ淡々と「日常」を繰り返す姿は、奇妙で、やさしく、そして少し切なかった。人間よりも人間らしい存在が、機械の身体を借りてそこに座っていた。

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やがて私は、電車のブースに導かれる。そこには、少年の姿をしたアンドロイドが静かに腰かけていた。なぜだか胸の奥がざわめく。隣に座れば、もはや自分も未来の景色の一部だ。目の前の風景は、現実から少しだけ滑り落ちていた。

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静かなる問いかけだった。私はどこで終わるべきなのか? この肉体が朽ちることを受け入れ、すべてを閉じるのか。それとも、記憶だけをアンドロイドに委ねて、新たな“生”を紡ぎ出すのか。

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そして、最後に訪れるのは、展示の地平はさらに千年先へと跳躍する。気がつけば私は、1000年後の世界に立っていた。建物は呼吸し、風景が意思を持ち、すべてが静かに共鳴していた。そこに“人間”という存在の痕跡はどれほど残っていたのだろう。もはや誰も正確には答えられない。しかし、その曖昧さこそが未来の輪郭であるようにも思えた。

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「いのちの未来」は、ただ未来を見せる場所ではなかった。それは、己の存在を、現在から千年の時を超えて問い返す、ひとつの魂の装置だったのである。

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私は出口で立ち止まった。来たときと同じ身体のはずなのに、何かが変わっていた。私の中の「時間」が、少しだけ先に進んでしまったのだ。夢洲の夕風が背中を押す。あれは、もうただの展示ではない。あれは、未来がそっとこちらに差し出した、手紙のようなものだった。

投稿日:2025年7月4日

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