岡村靖幸を初めて聴いたのは1988年だった。なぜ聴き始めたのかは覚えていないのに、なんかプリンスっぽい歌があるなあ、と思ったことだけは残っている。
それからシングルCDの「聖書」を聴いて、これはいい、と決まった。ずいぶん簡単な決まり方だが、10代に刺さった曲というのは、こちらの詳しい説明など必要としていないらしい。
その「聖書」をライブで聴きに、2026年7月19日の岡村靖幸 2026 SUMMER TOUR「ピポット」へ行った。会場は初めてのZepp Hanedaで、セットリストの情報は遮断した。知りたいことはいろいろあるのに、知ってはいけないことだけはせっせと避ける。
とにかくスタンディングは無理なので、なんとか指定席を手に入れた。最後列だったが、座席がある時点でこちらの勝ちである。誰に勝ったのかはわからない。
ところが最後列からでも想像以上によく見えた。駅からも近く、Zepp Hanedaは素晴らしい。初めて来た会場について、いきなり都合よく信頼を深めているが、この日はそれでよかった。
YouTubeでは断片的にライブを見ていた。それでも実際に目の前で見る岡村靖幸は、最初から最後までずっと踊りながら歌っていた。動画の断片をいくらつないでも、最初から最後までという時間にはならない。
「成功と挫折」から始まり、「ハリケーンベイベ」「ヘアー」と続く。そこへ「瞬発的に恋しよう」が入る。デビュー曲の「Out of Blue」から最新の「瞬発的に恋しよう」まで同じ日に並ぶのだから、こちらにはベスト盤のようなセットリストに思えた。
そして「聖書」である。ナマの「聖書」がきけるとは・・。1988年から頭の中に置かれていた曲を、最後列の指定席から本人が歌うところまで見る日が来た。
「聖書」のあとには「ハレンチ」があり、「Out of Blue」があり、「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」、そして「だいすき」まで続いた。曲名だけなら何度も見てきたものが、この日は順番を持って目の前に現れる。セットリストを遮断してきた人間への報酬としては、かなり都合がいい。
アンコールでも「家庭教師」や「マシュマロハネムーン」が出てきて、さらに「ビバナミダ」まで聴いた。どこまで行っても知っている曲が待っているので、終盤になっても油断する場所がない。最後列でよく見えるという最初の満足を、曲が次々と上書きしていった。
意外だったのは、男性1人で参加している人も結構いたことだ。こちらが勝手に珍しい側へ身を置いていただけで、客席を見ればそうでもない。ライブへ1人で来て、最後列の指定席を確保し、始まれば岡村靖幸を見続ける。実に筋が通っている。
最初から最後まで踊りながら歌う姿を見て、「聖書」をナマで聴き、「Out of Blue」から「瞬発的に恋しよう」まで受け取った。来年もやるのであれば、また来ることを誓った。次も指定席をなんとか手に入れるところからだが、そのくらいの現実的な誓いでちょうどいい。