
松岡英明のライブへ行こうと思い立ってから、実際に足を運ぶまでには随分と時間がかかった。ライブハウスという場所は、少しためらわせる。中では皆が当然のように音楽を楽しんでいるのに、自分だけが扉の前で深呼吸をしているような気分になるのである。次の機会でいいだろう、また今度にしよう。そうしているうちに季節は巡り、気づけばかなりの年月が流れていた。
そしてようやく辿り着いた錦糸町rebirthは、想像していた以上にコンパクトな空間だった。昼公演ということもあり、夜のライブハウス特有の緊張感よりも、どこか穏やかな午後の空気が漂っている。
驚いたのは距離である。
ステージと客席を隔てるものがほとんどなく、あの松岡英明が二メートルほど先にいる。いや、2,3メートルという表現ですら遠く感じるほどだった。こちらが少し身を乗り出せば、音楽の粒子がそのまま飛んできそうな距離である。
長い年月を経ても、その姿は変わらず美しい。歳月は人の顔を変えるが、ときに人の放つ光だけは変えられないらしい。歌声もまた鮮やかで、CDの中で鳴っていたあの声が、そのまま目の前の空気を震わせている。
客席を見渡せば、自分以外はほとんど女性だった。長い年月を共に歩いてきた人々が作り出す独特の温度があり、その輪の外側にいるはずの自分も不思議と居心地が良かった。
今回はリクエスト形式の特別公演である。定番曲よりも珍しい曲が飛び出す可能性が高い、いわば宝探しのようなライブだ。初参加の身としては、あれも聴きたい、これも聴きたい。欲望は際限なく膨らむ。
迷いに迷った末、自分が投じた一票は「キミは完璧」だった。
そして、その曲が始まる。
長いあいだ胸の中で育ててきた願いが、現実の音となって降り注ぐ。音楽とは不思議なもので、聴いているつもりが、いつの間にか昔の自分と再会している。あの曲を初めて聴いた頃の記憶が、錦糸町の小さなライブハウスにふわりと舞い戻ってきた。
終演後には大きな満足感が残った。しかし人間とは欲深い生き物である。一度叶うと、次の願いが生まれる。今度は今回聞けなかった曲を観てみたい。
長年のためらいの末に開いた扉の向こうには、まだまだ見たい景色が残っていたのである。

