
ベルギーと聞けば、つい口元が緩むような甘やかな想像が広がってしまう。焼きたてのワッフル、香ばしいフライドポテト、なめらかなチョコレートの数々。あるいは、ピッチを自在に操る司令塔、ケヴィン・デ・ブライネの姿。そんなふうに、私の中のベルギーは「美味」と「技巧」の国として静かに位置を占めていた。

だが、夢洲の風に吹かれてたどり着いたベルギーパビリオンは、そのイメージを見事に裏切り、そして新たに塗り替えた。ここは単なる美食の国の延長ではなかった。最先端の医療技術、人工知能との共生、バイオテクノロジーによる未来の福祉——そうした言葉たちが、鮮やかに、静かに、目の前に立ち現れてくる。



館内ではLEDが織りなす光の壁が、呼吸するかのように脈打ち、そこに人間の形を模した彫像が配置されていた。生と無機物のあわいに、なにか確かなものがあるような気がしてならない。目に見えないものが、確かにそこに存在していた。展示のひとつひとつが、ベルギーという国の輪郭を再構築してくれる。






外観もまた、時と共に色を変える。日の光を受けた瞬間と、夜のイルミネーションに包まれた姿とでは、まるで別の建築物のようで、ひとつの国が持つ多面性そのものを表しているかのようだ。



私は知らなかった。ベルギーという国が、未来を見据えながらも人間の温度を忘れない国であることを。そういうことを知ることができるのが、万博の醍醐味である。ワッフルを頬張るだけでは出会えない真実が、ここには確かにあった。