
新宿ミロードを思い出すとき、最初に浮かぶのは店でも看板でもなく、小田急線改札横のエスカレーターだ。片足を乗せた瞬間、まだ駅にいるのに、もうミロードへ入っている。自分では歩いていないのに、喧騒と光のほうへ運ばれていく。あの短い上昇には、買い物や待ち合わせの前にだけ訪れる、小さな高揚が詰まっていた。
その先には、西口と南口を結ぶモザイク通りがあった。文房具を手に取れば、予定になかった一品まで連れて帰りたくなる。前方にはFM局があり、その傍らのクッキー屋から漂う甘い香りが、新宿の空気に混じっていた。通り抜けるだけでもよい場所なのに、つい足がゆるむ。モザイク通りは移動のための道でありながら、寄り道そのものでもあった。
私は10代から20代にかけての数年間、ここでアルバイトをした。忙しく働き、よく笑い、合間にはここで休憩した。何度も繰り返した仕事の風景は、店内の光や人のざわめきと結びついている。人生で最も楽しかったアルバイトの記憶には、いつもミロードが建物ごと収まっている。
1984年10月に開業した新宿ミロードは、2025年3月16日20時に閉館した。最後に掲げられたメッセージは「卒業おめでとう、わたしたち。」だった。別れではなく卒業と呼ぶところが、いかにもこの場所らしい。あのエスカレーターは、長いあいだ人を上へ運びながら、それぞれの時間の入口にもなっていたのだ。新宿を歩けば今も、改札横で片足を乗せたときの高揚が、記憶のなかで静かに動き出す。











ここで休憩し

ここでアルバイトに励むのであった