子どもの頃、テレビの向こうで活躍するウルトラマンたちを見ながら、怪獣とは別に目を奪われていたものがある。空に現れる、記号のような文字列。ウルトラ文字である。
何と書いてあるのかは、よくわからない。それよりも、文字を空へ書くという行為そのものが格好よかった。文字はノートの罫線や原稿用紙の升目に収めるものだと思っていたのに、ウルトラ文字には紙すらいらない。
手などから放たれたエネルギーが、上空や宇宙空間をそのまま通信欄にしてしまう。空は眺めるだけのものではなく、書き込めるものだったのである。この一点について、私はずいぶん都合よく感心していた。
もちろん真似はした。ノートの隅にそれらしい線を描き、こちらも宇宙の通信に参加したつもりになる。形を似せることと読めることは別なので、書いた本人にも解読できなかった。
秘密の文書としては、あまりにも守りが堅い。何しろ作成者にも内容がわからないのだから、誰かに見られて困る心配もない。それでも、意味のわからない線を重ねている間だけは、ノートの隅が上空か宇宙空間になった。
やがて仕事に追われ、電車に揺られる大人になり、ウルトラ文字のことは記憶の奥へ引っ込んでいた。忘れたというより、どこへしまったのかを忘れていた。わざわざ探すほどではないが、見つければすぐわかる。その程度には、しっかり残っていたらしい。
祖師ヶ谷大蔵を歩いていると、不意にそのウルトラ文字が目に入った。ウルトラマンの故郷ともいえる街で再会した文字は、昔と同じように謎めいている。読めないものを見て喜ぶという、子どもの頃からあまり進歩のない反応まで戻ってきた。
ただし今は、インターネットで検索すればウルトラ文字の一覧表が見つかる。かつて宇宙人だけのものに思えた文字を、手元でひとつずつ確かめられるのだ。空を飛べるわけでも光線を放てるわけでもないが、昔は読めなかった文字なら読めるかもしれない。
ウルトラサインは、ウルトラ戦士たちが通信用に使う信号である。手などからエネルギーを発射し、上空や宇宙空間にウルトラ文字を描いて伝達するもので、「ウルトラマンA(エース)」で初めて導入された。仕組みをあらためて確認しても、私が引っかかるのはやはり通信内容より、空を通信欄にするところだった。
祖師ヶ谷大蔵の街角で文字を見つけ、一覧表を探し、読み解いてみる。子どもの頃にノートの隅へ描いた正体不明の線まで解読できるわけではない。あれはたぶん、今後も作成者不明ならぬ内容不明のままである。
それで構わない。今回は街角のウルトラ文字を見つけ、読めないまま通り過ぎずに済んだ。ノートの隅で勝手に宇宙通信をしていた自分にしてみれば、それだけでもかなり都合のよい再会だった。