
「オペラ座の怪人」という名は、長いあいだ私の頭の中で静かに響き続けていた。あの半面の仮面、そのただならぬ気配に惹かれながら、気づけば三十年近くも足を運ばぬまま時だけが過ぎていた。ニューヨークを訪れた際にも上演されていたが、英語へのためらいと、劇場という場所への一歩が踏み出せず、ただ遠巻きに眺めるだけで終わった。
いわば“ジャケ買い”ような気持ちで、内容も知らぬまま竹芝の劇団四季の劇場へ向かう。扉をくぐると、そこには日常とは異なる空気が流れていた。舞台に慣れていない身としては、ふと意識が遠のく瞬間もあったが、それさえもどこか夢の中の出来事のように思えた。
そして、不意に現れるあの装置。上方からゆっくりと降りてくるゴンドラに、思わず息を呑む。現実の重力を裏切るようなその光景に、物語の奥行きが一気に立ち上がる。さらにあのテーマ曲が響いた瞬間、長いあいだ胸の中で鳴っていた音が、ようやく現実と結びついた気がした。
遠くから憧れていたものに、ようやく触れた夜。舞台というものは、理解するよりも先に、体験してしまえばよいのだと知る。あの仮面の向こう側には、確かに足を運ぶ価値のある世界が広がっていた。
