キンブレース駅は、ハイランドの広大な余白にぽつりと置かれた栞のような存在である。サザーランドの小村キンブレースは、A897号線とB871号線が静かに交わる場所にあり、地図の上ではあまりに控えめだが、列車で辿り着くと世界の縁に来たような感慨を覚える。人口わずか五十余名の村は、喧騒という概念を忘れ去ったかのようで、風と雲と草原が主な住人である。
ファーノース線の列車が駅に滑り込むと、旅人は時間の進み方が変わったことに気づく。ここでは政治区分や選挙区の名も、遠い国の出来事のように霞み、ただ土地の静けさだけが確かな実感として残る。キンブレース駅は目的地というより、日常からそっと外れるための装置であり、降り立つ者にゆっくりとした思考と、何も起こらない贅沢を授けてくれる。ハイランドを深く味わうなら、この小駅で一度、列車を降りるべきである。
キンブレースの駅近く