2000年10月、私は軍艦島を訪れる。
そのきっかけは、ある新聞系ウェブサイトの記事だった。軍艦島の写真に目を奪われ、その圧倒的な風景に驚き、「これはぜひ見てみたい!」と胸を高鳴らせたのだ。そして、九州旅行の計画に軍艦島訪問を加えた。
しかし、当時は今のように軍艦島に関する本や資料が豊富ではなく、情報収集には苦労した。そこで泊まったホテルのコンシェルジュに相談してみることに。「一流のコンシェルジュはノーと言わない」という格言を心の支えにしながら。すると、幸運なことに、軍艦島の元住民の方々がチャーターした船に乗せてもらえることになった。定期便など存在しない時代で、彼らのご厚意に甘える形で軍艦島へ向かうことが叶ったのだ。
船は小雨が降る中を進んだ。20分か30分ほどだっただろうか。島が視界に入るや否や、その圧倒的な存在感に言葉を失った。黒い廃墟の群れが霧に包まれ、現実と非現実の境目を曖昧にしている。これはただの廃墟ではない、何か特別なものだと確信した。
コンパクトデジカメを片手に、揺れる船上でシャッターを押しまくる。たとえ島の中に足を踏み入れることができなくとも、目の前に広がる景色を見ただけで、心は満たされていた。「すごいものを見てしまった」――ただそれだけで十分だった。