ウィドリントン駅に降り立つと、旅人はいつの間にか広い空の下へ解き放たれている。ロンドンとエディンバラを結ぶ大動脈の途中にありながら、この駅のまわりには慌ただしさよりも静けさが満ちている。見渡せば、小麦や豆を育てる畑がどこまでも続き、その向こうには海がかすかな銀色の帯となって横たわる。
平坦な大地を風が渡り、遠くの丘へ向かってゆるやかな起伏を描く。その風景には、都会で失くした時間がそっと置かれているような気がする。かつて森に覆われていた土地の記憶は今も土の匂いの奥に残り、1848年に使われていた砂岩採石場の跡は、長い歳月の堆積を静かに物語る。
人影はまばらである。だからこそ、ここでは空の広さや雲の流れが驚くほど鮮やかに感じられる。何もないのではない。急いで通り過ぎる旅では見落としてしまうものが、たしかに残されているのだ。
広々とした畑の向こうに海を眺めていると、なぜだか少年時代の帰り道を思い出す。胸の奥に沈んでいた記憶がふと浮かび上がり、少しだけ足を止めたくなる。ウィドリントンは派手な見どころを誇る場所ではない。しかし、静かな景色に耳を澄ませる旅人には、この土地だけが持つやさしい時間を分けてくれるのである。
ウィドリントンの駅近く